棚田とは?

棚田とは

棚田とは、山の斜面や谷間の傾斜地に階段状に作られた水田のことをいいます。日本では、山がちのところではどこにでもみられる水田形態で、日本にある約250万㌶の水田のうち約22万㌶(8%)が棚田だといわれています。その中でも、人の目に触れることの多かった能登白米や信州姨捨の棚田はよく知られ、その景観の美しさが文学作品にも描かれました。一枚一枚の面積が小さく、傾斜地で労力がかかるため、中山間地域の過疎・高齢化にともなって、1970年代頃から減反政策の対象として耕作放棄され始め、今では40%以上の棚田が消えているといわれています。

【石川県輪島市白米千枚田】
国の名勝地として古くから観光の名所として有名。

【長野県千曲市姨捨棚田】
「田毎の月」として広重の浮世絵や多くの詩歌に詠われる。

【三重県熊野市丸山千枚田】
一望できる棚田としては日本最大規模。

【佐賀県唐津市相知町蕨野の棚田】
8.5mにも及ぶ石積みは日本一ともいわれる。

日本の原風景として

1995年の高知県梼原町で行われた「第1回全国棚田(千枚田)サミット」や1999年に選定された「日本の棚田百選」などが契機となり、「農民労働の記念碑」、「日本のピラミッド」ともいわれる歴史的文化遺産としての評価が高まり、日本の原風景として、全国的に保全活動が行われるようになりました。

棚田の歴史

棚田がいつごろからみられるようになったかは、正確にはわかりませんが、6世紀中葉~7世紀前半とされる飛鳥時代以前の古墳時代には出現していたとも考えられています。それらの棚田は、緩い傾斜をもった狭い谷の谷底にひらかれた棚田であったと考えられます。「棚田」という言葉が文書でみられるようになるのは室町前期で、1406(応永13)年の高野山文書の一つに、「今ハ山田ニテ棚二似タル故ニ、タナ田ト云」とあるのが最初だといわれています

棚田の定義

棚田は傾斜地に階段状をなし、畦畔をつけて開かれた小区画の水田全般をいいますが、それでは、研究対象として定量的に把握することができません。中島峰広早稲田大学名誉教授(NPO法人棚田ネットワーク代表)は、農水省の「水田要整備量調査」のデータ(1988年、傾斜1/20以上にある水田が対象)を用いて「全国棚田分布図」を制作しました。今ではそれが一般的にも「棚田の定義」として広がっています。
※傾斜1/20とは、水平方向に20㍍進んだとき、1㍍高くなる傾斜のこと

棚田の種類

緩斜地の棚田

栃木県茂木町岩ノ作棚田

緩やかな谷の谷底などにひらかれた谷津田型や迫田型などの棚田。

土坡(どは)の棚田

千葉県鴨川市大山千枚田

畦畔が土で固められた曲線の美しい女性的な棚田。東日本に多い。

海辺の棚田

長崎県松浦市土谷の棚田

西日本の日本海側の海辺に多く、海面近くまで水田が及ぶ臨海型棚田。

急斜地の棚田

愛知県新城市四谷千枚田

1/6以上の急斜面に築かれた棚田。一枚当たりの面積も小さい。

石積みの棚田

高知県仁淀川町長者の棚田

畦畔が石で積まれて形成された力強い男性的な棚田。西日本に多い。

整然とした棚田

山形県朝日町椹平の棚田

場整備や機械が入りやすように整然と区画された棚田。

【参考】『日本の棚田~保全への取組み』中島峰広著(古今書院)

棚田の機能

棚田の注目すべき点は、一つの特徴的な機能ではなく、人や環境にとって、さまざまに有益な「多面的な機能」があるところだといわれます。代表的な機能として、「食糧生産」「保水」「洪水調整」「国土保全」「生態系保全」「保険休養」などがあげられます。

◎食糧生産機能

おいしいお米を作ります! 米を作る生産の場として見れば効率が低いといわれますが、棚田の米が美味しく、上質米であることは以下のような一般的な根拠があります。
  1. 平坦地の水田に比べ昼夜の温度差が大きいため、稲がゆっくりと熟する。
  2. 水源に近いため、水の中に微量元素を多く含み、また汚れが少ない。
  3. 土地が狭いのでコンバインで収穫・脱穀して籾を機械乾燥できないため、籾がついた稲束をはさ掛け(天日乾燥、はざ、とも言う)にすることが多く、程良く乾燥する。
また、美しい風景や豊かな自然環境の中で作られるお米が、棚田米ブランドとして都市の消費者に徐々に認知され始めています。

◎水源かん養・保水機能

豊かな水資源を貯えます!
日本の水資源が豊かなのは、森林や棚田の保水機能があるからだといわれています。日本はたくさんの雨が降りますが、河川が外国に比べて滝のような急傾斜で、国土の70%を占める山地に降った雨は自然のままだと、すぐに海へ無駄に流れてしまいます。ですから、干ばつになれば、私たちや動植物が利用する水がすぐに国土になくなってしまいます。しかし、日本は森林の保水力に加え、多くの棚田が溜池や用水路などの灌漑施設を経由して水を貯え、その水がゆっくりと河川に戻ったり、浸透して地下水(水源かん養)となったりして、私たちが利用する水が常に国土に保たれているのです。

◎洪水調整機能

棚田は緑のダム!
日本は河川が小さいため、大雨が降ると洪水が起きやすくなります。棚田は、山林に降った雨の一部を溜め、直接河川へ流さない「小さな治水ダム」の役割りを果たします。仮に畦の高さを30㌢、普段の平均水深を3㌢とすると、全国の棚田の総面積は約22万1000㌶を掛けると、洪水調節容量は5.9億立方㍍となります。これは黒部ダムの有効貯水量1.5億立方㍍のほぼ4倍にあたる量なのです。保水機能、洪水調整機能は、人口のダムでも同じ機能を有しますが、日本の水田面積をすべてを人口のダムでは肩代わりできないといわれています。

◎国土保全機能

地すべり防止、土砂崩壊防止、土壌侵食防止!
棚田は、地すべり地帯に拓かれることが多く、新たな「地すべり」や「土砂崩れ」の防止をするといわれます。地すべりは、厚い粘土層に覆われた山間傾斜地などで、雨水が地下に浸透して発生します。棚田は、田起こしや代かきなどの作業によって耕盤と呼ばれる土層を作り、地下への浸透水を減らします。ですから、棚田が耕作放棄されると、耕盤が乾燥して亀裂が生じ、雪融けや大雨の時などに大量の水がこの亀裂から地下に浸透して、地すべりを誘発することがあるのです。また、棚田は水を溜めるために水平にして畦畔を設けます。これが、海外の山なりの耕作地に深刻な被害を及ぼしている「土壌侵食」の防止につながっているとも考えられています。

◎生物多様性・生態系保全機能

豊かな動植物を育みます!
平地の大きな田んぼでは、コンクリート製の近代的な用水路と排水路が別々に作られていることが多く、水の流れは一方通行で、一旦排水路に流れ出た水は同じ田んぼに再び戻ることはありません。これに対して、棚田地域では、用水と排水を兼ねた水路や、土で作られた水路や畦畔が残っていて、生き物が成長に応じて田んぼと水路を行ったり来たりすることが可能です。また、溜池や湿田などの水たまりも多く、周囲の自然環境との補完性、水質の良さなどの理由から、多種多様な小動物、昆虫、植物が複雑な生態系を築き上げていいるのです。

◎保健休養機能

棚田はパワースポット
山々に抱かれながら代々受け継がれ、命の源である米を実らせてきた棚田のたたずまいは、見る人の多くに悠久の歴史の重みとともに安堵感を与え、棚田をめぐる清涼な水や澄みきった空気とも相まって、コンクリートジャングルの中で疲弊した都会の人々の心を癒し、リフレッシュする効果を発揮します。